第4回 「食用昆虫は本当に栄養が豊富なのか②」

むしはしです。(2010.12.10修正)
今回のテーマはこちら。

  1. カイコの栄養素
  2. カイコのアミノ酸スコア
  3. 鶏卵1個=カイコ3匹は本当?


1.カイコの栄養
カイコの粗栄養素について、表を作りました。単位についてはむしはしが改編し、統一しました。また、カロリーについては一部むしはしが計算して穴埋めをしました。
(カロリー=タンパク質g×4,脂質g×9,炭水化物×4)

ご覧のとおり、新鮮重と乾燥重とではだいぶ結果が変わります。また、生育ステージが幼虫なのか蛹なのかでも結果が大きく変わります。さらに、定量をした人によっても結果は変わります。つまり、唯一絶対のデータは存在しないのです。世に出回っているデータは色んなバリエーションのうちの1例だということです。
カイコの粗栄養素について一般的に言えることは、タンパク質が比較的多いということでしょうか。それでも新鮮重で、豚ばら肉(14%)と同じくらいです。脂質も炭水化物も少ないです。乾燥させると、見た目タンパク質が多くなります。
※Yang et al. (2002, 2004)についても、文献が手元にありません。中国の研究グループはカイコの5令幼虫が宇宙食としては最も食用に優れているとの主張をしていることから、このデータは幼虫のデータだとむしはしが勝手に判断しました。


2.カイコのタンパク質のアミノ酸スコア
この表もむしはしが計算し、改編して作成しました。

Finke のデータは幼虫のものです。Y.Yang, Katayama のデータは蛹のものです。

この表から、Y. Yang のデータによると第一制限アミノ酸はロイシンであり、アミノ酸スコアは51です。Finke のデータによると、第一制限アミノ酸トリプトファンであり、アミノ酸スコアは67です。Katayama のデータによると、第一制限アミノ酸はロイシンであり、アミノ酸スコアは77です。
対して、一般的な穀物アミノ酸スコアは以下の通りです。
白米:65(リジン)、小麦粉:44(リジン)、
ジャガイモ:68(ロイシン)、サトイモ:84(イソロイシン)
カイコはリジンもロイシンもあんまり豊富とは言えないような気がします。鶏卵や豚肉などのアミノ酸スコアは100ですから。うーん、成分の定量方法や計算方法などにばらつきがあるのでしょうから何とも言えないのですが、「動物性タンパク源として食品の中でも特に優秀」とは胸を張って言いにくいですよね。


3.鶏卵1個=カイコ3匹の栄養?
この表もむしはしがデータを改編し、作成しました。
鶏卵はMサイズ(約60g)を基準とし、カイコは蛹を1匹=1.5g、幼虫を1匹=2gとしました。

USDA http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/search/
いかがでしょう?
むしはしにはどの要素を基準とすれば、鶏卵1個の栄養とカイコ3匹の栄養が同じだと言えるのかはわかりません。カイコはビタミンもミネラルもそんなに多くないですし、微量元素で比較したとしても、それを栄養と言ってしまうのは疑問ですし…


僕の結論としては、カイコはそんなに期待するほど栄養素は多くないというところです。だからといって、それが昆虫を食べない理由にはなりません。栄養が少ないわけではないですから、食品としては十分に機能します。
「何故、昆虫を食べる必要があるのか?」
次回からも、じっくり考えていきましょう。


引用文献
Yunan Yang et al.(2009) Silkworms culture as a source of protein for humans in space
Finke (2002) Complete nutrient composition of commercially raised invertebrates used as food for insectivores
Katayama et al.(2008) Entomophagy: A key to space agriculture
X.H.Yu et al.(2008) Feeding scenario of the silkworm Bombyx Mori, L. in the BLSS
Taylor (1976) Butterflies in My Stomach. Woodbridge Press Publishing Co., ISBN 0912800089
片山ら (2009) 長期宇宙滞在に向けた宇宙食の提案 ―シロアリの利用―
The Fruitfly Shop
Rao(1994)CHEMICAL-COMPOSITION AND NUTRITIONAL-EVALUATION OF SPENT SILK WORM PUPAE
Wu Leung et al.(1972)Food composition table for use in east Asia.
Ramos Elorduy et al.(1997)Insects:A sustainable source of food?
Tiew(1928)Notes sur les insectes comestibles au Tonkin. [三橋(2008)「世界昆虫食大全」より引用]
周叢熙, 楊鉄(1993)「蚕蛹的綜合開發利用」 [三橋(2008)「世界昆虫食大全」より引用]
石森(1994)『農・虫・蚕』