第1回 「昆虫食とは何か」

むしはしです。
今回から、難しい話を少しづつまとめていきたいと思います。


まず、昆虫食とは何かを定義していきましょう。
昆虫食は英語で entomophagy と言います。"entomo=昆虫"、"phage=食べる" です。つまり、昆虫食とは「昆虫を食べる行為」をさす言葉です。または、「昆虫を食べる文化・習性」といっても良いでしょう。
ですので、昆虫食の王様(どこかで見かけた…)という使い方は間違っていると言えます。食用昆虫の王様とでも言い換えるべきでしょう。※ここでは、「食用昆虫」という用語を「別に食用専用じゃないけど、食べられる昆虫」という意味で用います。


さて、僕は大学院生であり、世界中の学術論文をたくさん読みます。
そこで、電子文献検索で entomophagy の単語を検索するとどのような文献がヒットすると思いますか?
Web of Science を使用したところ、2010年では11本の文献がヒットし、その全てが人間が昆虫を食べているというネタでした。2009年では9本の文献がヒットし、そのうち1本は「昆虫が昆虫を食べる」という意味での entomophagy でした。
何が言いたいのかというと、entomophagy は人間の行為だけを指すものではなく、昆虫を食べる全ての生物において用いられる用語だということです。たとえば、イモムシを食べる鳥も entomophagy だし、ウツボカズラも entomophagy です。その一方で、実際には entomophagy は人間の一つの食文化として用いられることが多いということもわかります。そしてそれらの文献の内容はどこで、誰が、どんな昆虫を、どのように、何のために食べているのか?というものが大半を占めています。
つまり、ethnoentomology(民族昆虫学)の分野、cultural entomology(文化昆虫学)の分野が entomophagy 研究の主流となっており、昆虫食という文化を通じて、そこに住む人間を知ろうという研究が多かったのです。(野中,2005)
まぁ、ここ数年では宇宙食への検討など、未来に視点を移した研究も増えてきているのですが、また後日お話しようと思います。
ここまでで、「昆虫食」とは何かを掴んでいただけたでしょうか?


こんな記事を書くだけでもすごく苦労しますね…